あるさんち。

インターネット牧場。

ローグライク世界の丁寧な教科書 スプラトゥーン3 サイド・オーダー

 

サイドオーダー、それはチャレンジ精神を育む丁寧なローグライク

 

 スプラトゥーンDLC、サイド・オーダー。
 最後の装備『ハチのパレット』を見てこぼれた言葉は「おいおい、やってくれるじゃねーの」でした。やってやろうじゃんって気持ちが沸々と湧いてくる。


 サイドオーダーはローグライク系のゲームです。
 階を進むごとに手に入るアイテム、チップを選び組み合わせて自分を強化していきます。自分好みの装備、いわゆる『ビルド』を作り上げていく遊びですね。


 その装備とは別にハッキングという要素もあります。手に入れたお金で永続的な強化(基本攻撃力アップなど)を購入できて、ゲームを進める上でかなり頼ることになる強化要素です。

 

 

 しかし『ハチのパレット』では、そのめちゃめちゃ頼ることになるハッキング強化に大幅な制限を強いられます。
 もう少し正確にいうと、ハッキング強化を積めば積むほど装備できるチップの数が制限されてしまう。


 正直なところパレット埋め周回の最後の方は消化試合みたいに感じている部分がありました。ここまでハッキングの強化でどんどん楽になってきてて、なんならちょっと簡単になりすぎちゃったかも、と思っていたくらいです。
 そんな感じでラスト1つまで来たからさっさと終わらせちゃおと考えていたところにこのパレット制限。


 だけど、無視してハッキングを積むなんて事はできません。なぜならここまでの周回で、チップの能力を組み合わせて戦うことの強さを身をもって経験しているのですから。いくらハッキング強化が頼もしかったとしても、チップ無しでサイドオーダーをクリアできるはずがない。

 

 それでも、チップのためとは言えハッキングを解除することは怖い。サイドオーダーを始めた頃の、敵に蹂躙された記憶が蘇る。


 攻撃力を下げたら敵を倒しきれないかも。
 防御力を下げたら。被弾した時の移動速度が下がったら。緊急ジャンプが無くなったら。ドローンの性能が下がったら。


 パチッ、パチッ、とハッキングを解除していくたびに、サイドオーダーを始めた頃の苦しい記憶が込み上げてくる。
 まだか……まだ下げないとダメなのか……と解除していって、気付いた頃にはほとんど丸腰。そこまでやっても装備できるチップの数は36枚から24枚に減ったまま。これで本当にクリア出来るのだろうかと不安がよぎる。


 「なんならちょっと簡単になりすぎちゃったかも」と慣れてきて舐め腐ってたタイミングで襲いかかるこの仕打ち。


 この「試されているな」という感覚。
 おいおい最後にとんでもないもの持ってきやがって。いいぜ、やってやろうじゃん。という対抗心。

 

 惰性だった周回から、新たな挑戦に引き戻されるその瞬間。

 

 

 で、まあ実際やってみるとなんて事は無くて、あっけなくクリア出来るんですよね。
 この「実際やってみると簡単」の裏にはこれまでの周回で得た経験が積み重なっています。ステージギミックの効率的な解法、敵の弱点や特性、自分が得意なチップの組み合わせ方。その経験と知識を総動員すればハッキングがほとんど初期状態でもクリア出来るようになる。
 ゲーム内のアイテムを組み合わせながらプレイヤー自身の経験までもが武器になる、という一連の流れを自然に体験させてくれる。ローグライクの教科書みたいな丁寧さ。

 

 本来なら「次はハッキング強化無しでクリアできるかチャレンジしてみようかな」と自分で縛りを設けて遊び方もあります。しかし全員がそういう遊び方をする訳じゃない。

 でもそういう縛りプレイで遊ばない人は、自分の知識と経験が武器になるというローグライクゲームのもう一つの面白さを味わうことはありません。私もわざわざ縛りプレイで挑戦したりしません。一通りクリアしたらそれで終わりにしてしまうことが多い。

 そんなプレイヤーに対しても、縛りプレイをストーリーの一部として強制的に組み込んで『自分の知識と経験までもが武器になる』という感覚を覚えさせてくれる。なんてありがたいことでしょうか。


 
 ちなみに私は、オクタシューターの連射速度と塗りを高めた疑似ボールドマーカーで塗りまくってインクネバネバ&パチパチのダメージを稼ぎ、移動するだけでドローンゲージを貯めながらヒメ先輩にボムを撒いてもらうビルドでクリアしました。インクネバネバ&パチパチが手放せない体になってしまいましたね。

 

自分の色、自分のプレイスタイルに沸く愛着


 それでそのビルドに関して、最終的に取ったチップの色で主人公の体の色が決まるシステムが面白いよなって思いました。攻撃力と塗りを強くすれば赤&オレンジのカラーリングに、インク回復や効率に重きを置けばパープルになるし、移動速度アップが好きな人は必ず青くなる。

 途中でクリア履歴を見直したときに気付くと結構楽しくて、自分の得意なプレイスタイルがそのまま『自分の色』として反映されてるんですよね。私は移動系を取らない傾向があるみたいで主人公の体が青くなってる率は低かったです。

 

 現実のタコが状況に応じて体の色を変えるように、戦況に応じてチップを選んだ主人公の体の色も変わる。いままではプレイスタイルの比喩表現として使っていた『自分の色』が、そっくりそのまま文字通りに自分の色として認識できるって、よくできた話だよなと。

 

 あと、連続チップカラーボーナスとかあって変に同じ色のチップ揃えたくなったりするんですけどそれだとあんまり強くならなくて、程よく雑味を混ぜた方が良いっていうのも結構悔しいんですよね。「どうせなら全部赤とオレンジで綺麗な感じにしよ!」って考えてしまいがちなんですけど、なぜかそれが縛りプレイになってしまうっていう。人の気持ちを弄びやがってみたいな。

 

以下、余談 

 

 色の話でいうと、ハイカラな主人公陣営に対してモノトーンの敵キャラのデザインがタールに覆われた化石のようで、エレベーターを降りてすぐの床に進化の系統樹が描いてあったりして、街の住人たちも古代の生物なのも相まって、こう、パレットを自分色に飾り付けて進化していく感じがいいんですよね。

 それで街の住人たちは古代生物だから遺伝子に刻まれた単純な行動をするだけっていう紹介ツイートもあったと思うんですけど、そこに掛けてその世界がプログラミングによって作られたネリバースだったってのがまた最高だし、そのプログラミングによって作られてプログラム通りに行動するよう生み出されたコダコAIが逆に自我を持ってプログラム想定外の挙動をするように進化してしまったっていう構図がまた、ね。いいよね。

 

 ただ機械的に武器パレットを埋めていって、なんかつまんないなって勝手に飽きてきた私に対して、自分で難易度を考えてちょうどいい楽しさに調整してもいいんだよって進化を促してくれたような。

 サイドオーダーは、そういうひとときでした。